レスターシティ快進撃にせまる
今季フットボール界で神話のようなストーリーが生まれ、世界中でその話題が一気に広がった。
ご存知の方も多いと思うが、日本代表岡崎慎二選手が所属するプレミアリーグ・レスターシティの快進撃である。
昨季レスターは残留争いに巻き込まれ、シーズンの半分以上を最下位順位である20位で過ごしたが、ラスト9試合で7勝1分1敗と好成績を残し、奇跡の残留を成し遂げた。
その出来ごとにサポーターも多いに満足していたが、それらの奇跡はまだ軌跡の途中に過ぎなかった。
小さな町から生まれたフットボールクラブが、プレミアリーグという最も歴史のあるリーグで頂点に達したことは、全世界に夢と感動を与え、多くの人の記憶に残るものとなった。
今回の記事では、今季レスターシティが起こしてきた快進撃を取り上げていく。
2011-2014シーズンの4年間ナイジェル・ピアソン前監督が指揮を執っていたが、今季からラニエリが監督を引き継いだ。
ラニエリといえばチェルシー、ASローマ、インテルといった名門クラブで指揮を執っていた経験がある一方で、リーグ制覇をしたのはモナコを率いていたときの2部優勝1度のみである。
チェルシー時代にはスタメンを固定せず、ころころとメンバーを弄っていたことから、ティンカーマン(いじくり屋、下手な修理工)という皮肉なニックネームが付けられた。
そんなティンカーマンを監督として迎えるにあたって、シーズン開幕前はマイナス的な意見も多かった。
昨季終盤に快進撃を見せ、奇跡の残留を遂げた勢いのあるチームに、監督として終わったとされているラニエリを迎え入れてよいのか。
日本人目線で言えば、ピアソン前監督が岡崎の移籍を望んでいたが、監督交代によって岡崎は試合に出られるのか。
そんな不安が多い中で2015/2016シーズンが開幕した。
4-4-2(ダブルボランチ型)を採用しており、攻撃時はカウンター、守備時は前線からのプレッシングという戦い方を採用。(シーズン開幕当初はポゼッション思考であったが、カウンターに変更)
全員がハードワークし、チーム内得点王ヴァーディでさえ前線からの守備を怠らない。
それどころか日本では岡崎のハードワークが注目されているが、実際試合を見てみるとヴァーディの方がハードワークしている印象を持つ。
特にダブルボランチのカンテ、ドリンクウォーター、2列目のオールブライトンは数字からもよく走っていることが分かる。
守り方
CBウェズ・モーガン、フートは大きな欠点を持っており、それは脚の遅さと足元の正確性であった。
鈍足なCBコンビを不安視する声が多い中、いざリーグが開幕すると、その欠点は影を潜めた。
リーグ戦半分となる19試合を消化した段階では、まだ安い失点が多かったが、後半戦に入ると一気にその失点が減っていった。
実際に数字から分かる通り、クリーンシート数が前半戦では3試合のみであったのに対して、後半戦では脅威の12試合を記録した。
その裏づけとして考えられるのは、ツートップとダブルボランチのプレッシングの仕方である。
ツートップのヴァーディ、岡崎は相手GK、CBを執拗に追いかけパスコースを限定し、ダブルボランチでボールを奪取するといったパターン化がされていた。
その中でもカンテのボール奪取回数はプレミアリーグ1位であり、ドリンクウォーターが絞ったところにカンテがボールを奪うことが何度も見られた。
こうすることで、相手はアタッキングサードになかなかボールを運べず、苦労することとなる。
そして次に、最終ラインは守備に色気を出さないことを徹底していた。
守備に色気を出さないとはどういうことかと言うと、危ないボールをパスで繋げるなり、ドリブル等で持ち運ばず、割り切ってクリアーすることが多いことを言う。
その分相手ボールになる確率が高くなってはしまうが、下手にカウンターを受けないので、対人に強いモーガン、フートが最終ラインで跳ね返してくれる。
結果的に1試合1失点を下回り(36失点)、プレミアリーグの中でも2番目に少ない失点数となった。
攻め方
先ほど述べた通り、レスターの攻撃スタイルはカウンターである。
手数をあまりかけず、前線にボールを運び、ヴァーディが得点するといった一連の流れである。
エースヴァーディは今期爆発的に成長を遂げ、リーグ通算24得点(得点ランキング2位)、ファンニステルローイが持つプレミアリーグ連続得点記録を破っての11試合連続得点という記録を成し遂げた。
ヴァーディの特徴は裏へ抜け出す技術が素晴らしく、特にCBとSBの間に入っていくことが得意である。
その特徴を嫌って、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、サウサンプトンなどが本来の4バックを変更し、3バックで挑んできた。
まさにヴァーディ一人のためのプランと言える。
しかしその状況下であっても最終ラインの間に入り、マンチェスター・ユナイテッド戦では11試合連続ゴールとなる重要なゴールも決めた。
年間MVPを獲得したマフレズも忘れてはならない。
18得点10アシストと両方で2桁をマークしており、ヴァーディと共にゴールを量産した。
ドリブラーであり、ゴールも決め、得点も取るマフレズはチームで一番技術が上手いと感じる。
そして最後に岡崎、ウジョアのコンビである。
コンビといってもピッチ上に二人が同時に出る機会は少なく、60分までプレーした岡崎に代わって出てくるのはウジョアであった。
その交代の狙いは60分まで岡崎がハードワークでボールを追回し、相手が疲れてくる時間帯の残り30分でウジョア投入というプランであった。
得点こそリーグ戦で岡崎6得点、ウジョア6得点とあまりインパクトはないが、二人は数字以上の活躍をしてくれた。
ウジョアは作季チーム内得点王であったが、今季から岡崎にポジションを奪われ、30分プレイヤーとしての印象が強い。
しかし、彼はそのことに対してチーム内で不満を一切出さず、自分の仕事に全うした。
ヴァーディが出場できなかった試合でも得点を挙げ、チームに欠かせない選手であったことには間違いはない。
イギリス人は賭けをする。
既に有名な話となったが、シーズン開幕前のレスター優勝倍率は何と5001倍であった。
これは今年ネッシーが見つかる500倍、ウィリアム王子に今年三つ子が生まれる1000倍、ローマ法王がレンジャーズでプレーする4000倍を差し置いての倍率となった。
それもそのはず、レスターは前評判も悪く、プレミアリーグ年俸ランキングでも17位(£4,820)に位置している。
これは1位チェルシーの1/4以下であり、資金力の低さが伺える。
今思うとレスターにいくらか賭けておけばと後悔しているが、来季5000倍ものオッズが付いているチームに賭けるかと言われれば賭けるはずもない。
開幕前からレスターに賭けた人のことを思うと尊敬に値する。
レスターの快進撃はすぐ終わると多くの人が予想したが、良い意味でその期待を裏切った。
不調な時期が続かなかったことも優勝の大きな要因となり、ラニエリの手腕が光ったシーズンにもなったであろう。
シーズン中、残留ラインである勝ち点40を目標に全員の意思統一がはっきりとし、チーム内に浮かれる者が誰もいなかった。
前半戦を終えた段階で39ポイントもの勝ち点を積み上げたチームは、後半戦どのような目標を掲げるのか注目とされていたが、ラニエリは次の目標をトップハーフ(10位以内)に置き、現実派ならではの目標を定めた。
その後もEL圏内の5位、CL圏内の4位以内と目標を変え、2位との差が開いても優勝という言葉は最後まで使わない徹底ぶり。
結果的に連敗しないチームを作り上げ、後半戦では前半戦の勝ち点を上回る42ポイントを獲得した。
今季レスターの試合を20試合以上見てきて、長い映画またはドラマを見ている感覚にさえ陥った。
筆者は来季、このドラマの続きがあることを期待したい。
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