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ゼロトップシステムの特徴と偽9番の役割

今回の記事はJリーグであまり見かけないシステムではありますが、ゼロトップシステムを取り上げてみたいと思います。ゼロトップシステムと言えばFCバルセロナASローマなど過去に採り入れていたチームがいくつかありますが、それらのチームを基に見ていきます。

 

まず最初にゼロトップと聞いてフォワードの枚数がゼロであると思う方がおられますが、実際にはフォワードは存在します。例えばバルセロナで言えばメッシであり、ローマで言えばトッティがそのポジションを担います。ゼロトップシステムでのメッシやトッティのような選手を偽9番と言い、この偽9番の役割がしっかりと熟せるか熟せないかでゼロトップシステムの質が変わってきます。では、まず最初に偽9番の説明から始めていきます。

 

サッカーの背番号にはある程度の意味があるのは皆さん知ってらっしゃると思われますが、その中でも9番の役割はストライカーです。ストライカーの仕事はゴールに近いエリアでプレーをして、ゴールを決めることが最大の仕事と言っても良いでしょう。有名な現役選手を挙げれば、フェルナンドトーレスファルカオ、レヴァントフスキー、日本人では佐藤寿人岡崎慎司といった選手ですね。

 

次に偽9番という言葉はスペインからやってきた言葉であり、”falso nueve”直訳すると”偽りの9”となります。ではどうして9番の前に「偽」という言葉が付くのでしょうか。

 

偽9番と呼ばれる選手も基本的に9番選手と同じくゴールを上げることが重要となりますが、ゴール以外にも必要な技術がなくてはなりません。その技術とは高いキープ力と決定的なパスを出すといったトップ下のような役割です。その理由は偽9番のポジショニングにあります。偽9番は攻撃時、前線に位置するだけではなく、中盤まで下がってきて前線にスペースを創り出します。中盤に落ちてきた際、マークされても高いキープ力が必要となり、前線の選手に決定的なパスを出すといったトップ下のような役割も担うからです。それらの技術が備わっている選手と言うのがメッシとトッティであります。因みにこの2選手は背番号10番を背負っています。では具体的に、ローマのゼロトップを見ながら解説していきます。

 

ゼロトップシステムを採用していたときのローマは4-2-3-1のシステムを採用し、センターフォワードの位置にトッティを配置した形となっています。見た目はどこにでもありそうなシステムですが、攻撃時にトッティの位置が変わります。トッティが中盤に落ちることで本来トッティが居るべきポジションに人がおらず、最前線にスペースが空きます。この形がゼロトップシステムと呼ばれる理由です。トッティが創りだしたスペースに二列目の選手が走り込むことで相手ディフェンス陣は混乱を招き、ローマの選手を捕まることが難しくなります。またトッティはトップ下の役割も熟せられるので、中盤での高いキープ力と展開力を武器に二列目の選手に決定的なパスを送りますことが出来ます。

 

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実はこのシステム、監督が試行錯誤して考え抜いた結果編み出されたものではなく、システム導入当初は仕方がないことで採り入れられたシステムでした。どういうことかと言うと、当時ローマには怪我人が続出しており、センターフォワードが出来る選手が居ませんでした。そこで監督は仕方なく1、5列目または2列目が本職のトッティセンターフォワードの位置に置く決断をしました。この決断が見事にハマり、ローマは躍進を遂げることとなりました。

 

このシステムのメリットはトッティが落ちてきたスペースに二列目の選手が走り込めるという点以外にも、相手センターバックのマークを曖昧にさせることにあります。センターバックの仕事は相手のフォワードをマークするところから始まりますが、マークする対象が居ないためセンターバック2枚が浮いてしまいます。下手にセンターバックのどちらかがトッティに付いて行ってしまうと自陣ゴール前に人が居なくなってしまいます。かと言ってゴール前に残れば、中盤で数的不利な状況を創りだしてしまいます。

 

このシステムがハマった理由として、今ではゼロトップシステムもお馴染みのシステムとなったことで対策も練られてはきましたが、当初は新しいシステムであり、対策が十分に練られていなかったことが挙げられます。

 

次にバルセロナのゼロトップを見ていきます。バルセロナの偽9番はメッシが担います。ローマとバルセロナのゼロトップシステムの違いはフォワードの並び方であります。ローマは1トップ、バルセロナは3トップを採り入れており、バルセロナの3トップの位置関係はフラットな陣形を保ちます。ローマの場合はトッティが中盤に落ちれば最終ラインを高く設定できましたが、バルセロナの場合はウイングプレイヤーが居るため最終ラインを高く設定できません。これが何を意味するかと言うと、バルセロナ相手の場合、最終ラインを高くしてセンターバックがメッシにマークすることが出来なくなってしまいます。メッシがフリーな状況でよくボールを持っていたのはこのことが理由であり、中盤で前を向いてのメッシのドリブルを止めるのはかなり難しく、相手チームは苦労を強いられていました。

 

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動画を見ると、メッシは頻繁に中盤まで下がりボールを受けています。メッシが空けたスペースにエトーとアンリが使ったり、メッシが最終ラインと2列目の間でボールを受けることから、簡単に前を向いてボールを持てているのが分かります。

 

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そして最後に、昨年CLに初出場したベルギーチームのKAAゲントを取り上げます。このチームはラウンド16の2nd leg対VfLヴォルフスブルグ戦でゼロトップシステムを採用しましたが、これまでとは違う偽9番を配置しないゼロトップシステムとなりました。システムはダブルボランチ型の4-4-2という基本的な陣形ではありますが、2列目の選手がインサイドに絞り、2トップがワイドに開いた形になります。大の字の”大”を逆さにしたようなシステムであり、新しいゼロトップシステムの創り方のように思えました。このシステムはバルセロナのゼロトップシステムと同様にウイングプレイヤーが居ることで、相手の最終ラインを低い位置まで下げさせることが出来ます。その結果センターバックがマークする対象がおらず、2列目の選手がフリーになれます。

 

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ここから実際の試合を基に解説していきます。

 

まずゲントの攻め方ですが、ウイングがワイドに開き、中央エリアに2列目の選手が居るというあまり見ない陣形となっているのが分かります。ヴォルフスブルグセンターバックは誰にマークして良いか分からず、浮いている状態になっています。

 

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こちらもゲントの攻撃時から。高い位置でボールを奪ったゲントは直ぐに前線の選手にボールを当てようとはせず、いったんウイングがワイドに開きスペースを創りだします。そしてそのスペースに2列目の選手が飛び込み、ヴォルフスブルグのディフェンス陣を混乱させるのが狙いです。画像では上手くいきませんでしたが、こういった中央スペースを使う攻め方がゲントには多々ありました。

 

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そして次にヴォルフスブルグセンターバックであるダンテの守備ですが、前半が終えるまでヴォルフスブルグセンターバック2枚は誰にマークを付くべきなのかはっきりしない状況が続きました。(特にダンテ) そこでダンテは右ウイングの選手にマークすることでマークをする対象をはっきりとさせました。しかしマークしに行けば本来自分が居るべき位置にスペースが出来てしまうため、ここをゲントに使われてしまうという場面がありました。マークに付いていけば中央エリアが空いてしまい、自分のポジションに残ればウイングの選手が空いてしまう。ダンテからすれば苦渋の決断であったに違いありません。

 

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最後にゲントのプレッシングの仕方ですが、4-4-2と同じように相手センターバックのプレッシングにはウイングが担当します。攻撃時にはワイドに開いていたウイング2枚も、守備時にはインサイドに絞ってしっかりとボールを追いかけます。攻守において陣形が変わるので、この辺ヴォルフスブルグからすれば厄介であったと思われます。

 

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試合はヴォルフスブルグがホームで1-0と勝利を収めましたが、特に前半ゲントの攻撃に手を焼いていた印象が見受けられました。前半30分までのボール支配率もヴォルフスブルグ40%ゲント60%とアウェーのゲントが優勢を保っていたことからも、ヴォルフスブルグが苦戦していたことが読み取れます。

 

ここまでゼロトップシステムの特徴と偽9番の説明をしてきましたが、もちろんゼロトップシステムにもデメリットがあります。それは偽9番が怪我などで試合に出られない場合、戦術が全く機能しないことにあります。上記でも述べましたが、偽9番の役割は非常に多く、代えが効かないことにあります。世界的に見て偽9番の役割をしっかりと熟せられる選手と言うのは片手で数えられる程しか存在しないため、チーム内で2人以上も偽9番を熟せられる選手が居るチームはありません。2列目の選手を1トップ、もしくは3トップの頂点に置くチームあることにはあるのですが、偽9番に重要な「ゴールを決める」という仕事が出来ていません。9番の前に「偽」という言葉が付いてしまいますが、なにも9番としての役割が劣っているからこの言葉が付くのではありません。偽9番が出来そうな選手はトッティ、メッシ以外にはイブラヒモビッチネイマールぐらいでしょうか。メネズ、ゲッツェも一時期代表で偽9番を演じたこともありましたが、上手くいかなかったみたいですね。偽偽9番といったところでしょうか。

 

最後にゼロトップシステムをまとめると

  1. 偽9番が空けたスペースに2列目の選手が飛び込んでくるので、ディフェンス陣は誰にマークするか混乱を招いてしまう。
  2. センターバックは安易に偽9番に付いていけば本来自分が居るべきエリアにスペースが出来てしまい、残っていれば中盤で数的不利な状況を生み出してしまう。
  3. ゼロトップシステムにも2種類あり、ローマの1トップ、バルセロナの3トップである。
  4. 偽9番に頼るシステムが故に、偽9番が試合に出なければ、全く機能しなくなってしまうというデメリットがある。

 

以上の点が挙げられます。

 

かつては5人ものフォワードが存在していたサッカーではありますが、今やフォワードの枚数は0人となってしまいました。しかし最近ではこのゼロトップシステムも古いという考え方が出てきており、いくつか対策も創りだされてきました。例えば対バルセロナの場合はセンターバックを1人増やし5バックにすることで、そのセンターバックがメッシにマンマークするといったやり方や、ローマの場合も同様にトッティを複数人で封じ込み、戦術を機能させないといったやり方が出てきています。

 

ゼロトップシステムが新しいと見るか、古いと見るかは読者様次第です。

 

今回の記事ではローマの試合映像がなかったため、バルセロナとゲントのみ動画または画像を使っての解説となりました。

 

では今日はこの辺で。

 

 

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