5トップには5バックを
前回にも書いた通り、今回から何度かに分けて、Jリーグのチームがミシャシステムに対してどのような戦略で挑んでいるかを述べていく。
そして今回は、4/1に行われたJリーグ1stステージ第5節、浦和レッズ対ヴァンフォーレ甲府の試合のレビューも兼ねて、説明していく。
まずはヴァンフォーレ甲府とういチームの説明から
甲府は今季から、昨季柏レイソルに1年間のレンタル移籍であったクリスティアーノがチームに戻り、ブラジル人FWニウソン、ナイジェリアFWチュカ、オーストラリア人ボランチのビリーセレスキーが加入した。昨季のチーム得点ランキングトップ3のバレー(8得点)、阿部拓馬(5得点)、伊東純也(4得点)がチームを去り、今シーズンの甲府の攻撃は、昨シーズン13得点のクリスティアーノ、新加入FWのニウソンが軸となりそうだ。昨季の得点数は26得点と1試合平均1得点を大きく下回ってはいるが、失点数は44失点とまずまずの数字である。システムは3-4-2-1を採用しており、守備時にはWBが最終ラインに加わり5バックになるのが特徴的だ。相手にボールを持たせ自分達のペースに持ち込み、ボールを奪うとカウンターで点を取るといった、絵に描いたような堅守速攻のチームである。
by サッカーキング
フォーメーション
甲府はスタート時から両WBが低い位置を取り、5バックを形成している。これは浦和の攻撃に対応するためであり、浦和のアタッカー5人に対して5枚のディフェンス陣で守るといった、最終ラインで数的同数を築くためである。
甲府の戦い方
甲府は守備の際無理にボールを奪いに行かず、浦和にボールを持たせながら相手に主導権を握らせない戦い方をしていた。最終ラインは敢えて高い位置を設定せず、ディフェンスラインの裏にスペースが出来ないよう、ケアーしていた。
攻撃面では恐らくゲームプランとしては60分まで無失点で耐え凌ぎ、残り30分で1点を取るといったことを考えていたであろう。浦和は前線に人数を割いているのでカウンターに弱い傾向にあり、甲府はカウンターで点を取ることを考えていた。実際昨季のアウェー浦和戦、途中まで0-1で押されていた甲府であったが、スピードスター伊東純也が一人でカウンターを発動し、フィニッシュまで持ち込み、勝ち点1をもぎ取ったゲームを演じた。
前半31分に起きたアクシデント
5-4でブロックを組み、浦和の攻めを耐え凌いでいた甲府であったが、前半31分にキャプテンのCB山本がこの日2枚目のイエローカードを貰い退場となった。11人でも何とか浦和の攻撃を耐え凌いでいた甲府であったが、そこから1人少なくなってしまってはもうワンサイドゲームになると誰もが感じていた。しかし個人的にはそんな不利な状況からの佐久間監督の采配に興味があった。
佐久間監督の考えたシステムはこうであった。
相手5人のアタッカーに対して最終ラインの人数を削ることはせず、また最前線で起点となってくれるクリスティアーノも外せないので、中盤の人数を一人減らし5-3でブロックを形成した。中盤と最終ラインで数的同数を作り、ボールを奪うと個で打開してくれるクリスティアーノにボールを預ける。そこからクリスティアーノが一人でカウンターを成立させるなり、上手くファールを貰うことが理想ではあったが、あまり上手くいかず、最前線でなかなかボールが収まらない時間帯が続いた。
起点を失くす決断
迎えた後半20分、佐久間監督が動きに出る。唯一前線で起点となり個で打開できる能力があったクリスティアーノを交代し、変わりに最終ラインの人数を増やす決断をした。システムは6-3-0と最終ラインの人数を増やし、最前線で起点となる選手を減らすことによって、甲府は守りを固め、アウェーで勝ち点1を取りに行く作戦へと出た。しかし結果的にこの采配が裏目にでてしまった。
スタッツとハイライト
浦和1点目のシーン 2:09- 興梠
浦和2点目のシーン 2:26- 森脇
甲府1点目のシーン 2:40- 稲垣
甲府1失点目の原因
1. ビルドアップ隊を自由にさせてしまった
最終ラインでボールを回している遠藤、阿部に対して誰もプレッシャーに行くことが出来ず、それによって簡単に1本の縦パスを通させてしまった。ここは最前線で浦和のビルドアップにプレッシャーがかけられる選手が必ず必要であり、0トップのデメリットが攻撃面だけでなく、守備面にも現れたシーンとなった。
2. 6バックがゾーンで守っていた
興梠がボールを受けに中盤までポジションを落としたことで、甲府の中盤の選手が興梠にマークをしなければいけない状況になってしまい、一瞬そのマークが遅れてしまった。ここはゾーンで守っていた6バックの誰かが常に興梠にマンマークし、起点を作らせない仕事をしたかった。
3. 最終ラインに人数を割きすぎた
どうしても最終ラインで甲府の選手が無駄に余ってしまうシーンが何度もあり、もったいない印象であった。最終ラインで人数をかけるよりも、最前線で起点となれる選手を配置するなり、中盤に人数を増やしたかった。そうすることによって守備のしやすさも変わっていたであろう。この先制点の後、甲府はFWを投入し、5-3-1の形に戻した。
余談となるがよく掲示板などで、あまり力のないチームが上位チームと対戦する際、10バックで試合に挑めと書き込む人を見かけることがある。(もちろん冗談であるとは思うが。笑) 今回の試合はそれを証明する上で良い例であり、最終ラインに人数をかけたからといって必ずしも守りやすくなるとは限らない。相手のビルドアップにプレッシャーをかけにいけない、相手のラインが上がることによってずるずると最終ラインが低くなる、最終ラインに人数をかければかける程ラインを一列に保つのが難しくなってくる等デメリットだらけである。それとは反対に攻撃時にも同じことが言え、最前線にアタッカーを何人も配置したからといって、中盤での組み立てに苦労してしまい、カウンターの餌食になってしまう等の可能性がある。(決して浦和のことを言っているつもりではありません。笑)
試合はその後、4月男森脇がこの日も毎年恒例のスーパーゴールを叩き込み点差を広げ、甲府も追加タイムに1点を返したが2-1で試合は幕を閉じた。
甲府としては勝ち点1を持ち帰れる試合運びであり、もしも甲府があのまま5-3-1で試合を続けていればまた違った結果となっていたかもしれない。しかしサッカーにおいて「たられば」を使うシーンは90分の中に何度もあり、同時にそれはただの結果論でもある。
この試合は支配率(浦和72%甲府28%)だけを見ると浦和の圧倒的なボール支配率ではあったが、見ていて十分に楽しめた試合となった。
次回はミシャシステムに対してのミラーゲーム戦術を書いていく。